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る必要がある。同時に、前向きな情報収集あるいは手持ち情報の顧客への発信といった営みの中で、顧客との信頼関係は醸成されていくものと考えられる。
そして、広く収集された業界動向情報を、自社の『経営戦略』にフィードバックし活性化を図ることで、企業自らの外部環境への適合と、それによる生き残りを模索することが重要である。
D 協業化・共同化の取り組み
「作業船分野に進出するに当たっての克服すべき課題」の部分でも示したように、今後の道内造船業界を考えた場合、構造的に内在している業界の問題を避けて通ることは不可能である。業界の構造的な問題とは、事業規模の零細性や、人的間題としての職人の減少や経営者も含めた従業員の高齢化などが指摘され、さらに道内造船業の特質としての「漁船の造修」に特化した売上構成のため、今後の漁業動向の先行き懸念に大きく揺さぶられる造船業という姿が浮き彫りになる。
上記のような抜き差しならぬ背景を考慮する場合、今後の道内造船業界の再編成による体質強化を、不可避的な図式として認識しておく必要がある。その場合、吸収・合併といったドラスチックな再編も当然考えられるが、まず検討課題としてあげられるのは、瀬戸内地域の造船業者にみられるような『協力工場・提携工場』といった企業ネットワークの構築である。今後の造船業での生き残り策として、業界あるいは地域をあげての協調的な取り組み、協業化や其同化を通じての個社の経営体力の強化を優先的に検討する必要がある。
また、「地区別原価形成要因」でみてきたように、瀬戸内地域の造船業者と比較した価格競争力の弱さの主要因としての、部材単価の高留りが大きな問題となっている。これらに対処していくため、今後は共同仕入・在庫といったスケールメリット発揮を検討していく必要がある。そのための段階的な取り組みを進める必要かあり、まず、各地同業者の取り組みとして在庫情報データベースの構築を図り、相互扶助精神に基づいた必要部材の共同利用化を推進する。そして、将来的には共同仕入や共同在庫の組織的実施によるスケールメリット発揮により、仕入業者との有利な価格折衝の展開を目指す必要がある。
さらに、今後の道内造船業界のあるべき姿としては、道内業者で『北海道ブランド船』としてのOEM化を図り、元請け→下請、協力工場、提携工場といった分業体制確立を進め、価格競争力と高品質の実現を図ることも、有効な手段として望まれるであろう。その際にまず求められるのは、『北海道ブランド』形成のための協力工場(あるいは道内造船業界)による意思疎通であり、建造技術の規格統一化と技術の向上、情報交換、修繕業と建造造船所の連携といった総合的な対応が要求されるものと考えられる。
なお、協業化・協同化の取り組みに当たっては、明確かつ強力なリーダーシップ機能が不可欠であり、その早期構築が望まれる。
E 石狩湾新港における作業船修繕能力の増強
港湾においては、必要とされる多様な機能の中に船の修繕・整備能力もあげられる。海洋土木事業者からのヒアリングで、石狩湾新港には船の修繕施設がなく、港湾としての機能が完結していない、石狩湾新港からわざわざ他所へ回航して修繕しなければならないといった指摘が多かった。
業界に対する提言としては、前掲までのものと多少性格を異にするが、海洋土木事業者側のこうしたニーズにも応える取り組みが必要であると考えられる。道内造船業界としては、こうした背景を受けて、石狩湾新港の港湾機能の充実という公共的な命題と、また日本海海域の市場確保といった営業エリアの拡大をも見越し、今後の前向きな検討が望まれる点を確認しておきたい。

 

 

 

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